一之輔代演(後編)
2022年 08月 30日
「唐茄子屋政談」
遊郭に入り浸り、店の金を使い込んで勘当された若旦那が主人公。思い余って吾妻橋で身投げするところを、偶然通りかかった叔父に助けられる。そこから心機一転、唐茄子(カボチャ)売りの仕事につく。労働経験のない若旦那、のっけから大苦戦するも、町内の連中に助けられて残り2つで売り切るまでに。やがて調子よく売り声をあげながら貧民窟へ。そこで貧しい母子と出会す。話はここから佳境へ入っていくのだった。
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長尺とはいえ、特にこの演目は場面転換が多い。登場人物も複数いることから、まず若手には到底無理。何年か前のホール落語で、ベテラン真打ちである古今亭◯◯◯師匠の高座に遭遇したが、途中で爆睡してしまった。
ホールともなると、落語そのものに慣れ親しんだ人は少ない。何となく雰囲気でわかる。途中で退屈でじれた客がたくさんいた。それほど難しい噺なのだが、一之輔師匠の「唐茄子屋政談」には舌を巻いた。
21人抜きで真打ち昇進して今年でちょうど10年が経つ。当時の落語協会会長だった柳家小三治師の大プッシュもあり、この頃落語にはまったボクは一之輔快進撃を目の当たりにしていた。
最初はやたら粗削りさを感じたり、高座の出来にもムラがあった。しかし、今回はその真逆。とにかく口調に抜群の安定感が宿っていたのだ。女型は艶っぽい声色になり、激怒する叔父なんてドスのきいた大迫力。所作もたいへん丁寧に見えた。
当夜の熱演は1時間に及ぶ。寄席だと平均15分。トリでも30〜40分だ。60分はまずない。ボクは立ち上がって拍手を送りたいくらいだった。これを幕間券1500円で見たのか。値上げばかりの世の中で、こんな事ってあるんだな。いやはや芸の力はスゴイ。
ヘーマ